【あらすじ・感想】コーヒーが冷めないうちに 小説
「コーヒーが冷めないうちに」の小説版を読んでみた。
この話は、
過去に戻れると噂の喫茶店フニクリフニクラと
そこに集った人たちの物語だ。
それぞれ、恋人、夫婦、姉妹、親子、の物語となっている。
第1話「恋人」
好きだった彼から突然の別れ話。
彼は私よりも夢をとってアメリカに行ってしまうという。
言いたいことも言えないまま彼と別れてしまったあの瞬間をやり直したい。
そう思い過去に戻れると噂の喫茶店へ行ったのだが、
そこにはいろんなめんどくさいルールがあって・・・
第1話は登場人物の紹介や、過去に戻るためのルール説明を兼ねた章となっている。
ルール説明はつまらなくなってしまわぬように、ギャグ調でうまく説明されている。
だが登場人物の紹介や後の伏線については、メインストーリーから脱線する形で描かれていてあまりうまくない。
メインストーリーの彼氏彼女の本音も個人的には微妙に感じた。
第2話「夫婦」
妻に渡しそびれた手紙を渡したい。
喫茶フニクリフニクラに居座るその男は、しかし、目の前に立つ看護師が妻であることはすでに分からなくなっていた。
覚悟はしていたもののショックを受けた妻は、フニクリフニクラで少し休んでいく。
妻はそこで、店員から夫が過去に戻ろうとしていること、手紙を渡したいらしいのだということを聞く。
果たして、その手紙には何が書かれているのだろうか?夫が伝えたかったこととは何なのだろうか?
「恋人」のギャグチックな雰囲気から一転、今度は終始落ち着いた雰囲気で物語が進む。
物語も脱線せずに進むし、伏線の張り方もきれいで違和感がなかった。
最後も感情の煽り方がうまい。
確かにこれは泣ける話かもしれない。
第3話「姉妹」
ここ二日間、喫茶フニクリフニクラ常連の平井がいなかった。
なんでも妹が交通事故で亡くなったという。
家から勘当されたも同然の平井に、何度も会いに来てくれていた妹。
そんな妹を邪険にしていたことを平井は後悔し、過去に戻りたいと思う。
恨まれても仕方ないと思いながらも、せめて妹に謝るために。
ここまで話が進むと登場人物に親近感を覚えてくる。
そんな親近感を感じる平井さんの話だ。
不和のまま死に別れてしまった人に、もう一度会いたいという願いが叶うという話。
メインの題材はありきたりだが、周辺の人間模様など、なかなかいい話だと感じた。
第4話「親子」
持病により出産は母体が耐えられないだろう。
それでも子供を産むことを決意した時田計には、唯一気がかりなことがあった。
それは産後、自分がわが子の傍にいてやれないこと、寂しい思いをさせてしまうだろうことだ。
その不安からますます体調を崩してしまう計。
見かねた店のみんなは、そんな計のために協力して、計を未来の我が子に会いにいかせようとする
不確定要素が多い未来への移動は失敗しやすいと言われるが、果たして計は、うまく我が子と話すことができるのだろうか。
喫茶フニクリフニクラの、人の心の暖かさを感じさせる物語
今までの三話の集大成みたいな話。
フニクリフニクラの人たちの暖かさが感じられるいい話だ。
この物語の主題
この物語では、過去に戻る際のルールの一つ「過去に戻っても現実は変えられない」がやたらと強調される。(厳密にいえば変わっているから、「思い通りには変えられない」くらいの認識が妥当だが)
だが、それにもかかわらずこの物語に出てくる人たちはみな、後悔の時間へと旅をする。
それはなぜか?
自分の後悔に区切りをつけ、未来へと向かうためだ。
たとえ今この現実を変えられなかったとしても、未来は自分次第で変えていくことができる。
そのためにみな自分の後悔と区切りをつけるため、時間を移動する。
この物語はそんな、後悔を乗り越え、未来へと生きていく人たちを描いている。