天井

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【ボトルネック】ツユの言葉の意味 ラストシーン

 

久しぶりに米澤穂信さんの「ボトルネック」を読んだ。

改めて読んでみると、本当によく練られて書かれた本だ。

本当に驚嘆する。

それはさておき

 

今回は、当時よんだときは分からなかったけれど、今になって読んだら分かったことについて、ここに書きとめておこうと思う。

 

ボトルネック (新潮文庫)

ボトルネック (新潮文庫)

 

 

目次

・リョウの名前の由来

室生犀星の碑「・・・ろしてくれ・・・」

・ラストシーン ツユの言葉

 

 

リョウの名前の由来

まず、嵯峨野家の子供たちを挙げてみる。

「一人目が」 ハジメ

「露みたいに儚い命」 ツユ

「月足らずで生まれたから」 サキ

「もう子供は金輪際これっきり」 リョウ

 

当時は、なぜ「もう子供は金輪際これっきり」が「リョウ」になるのか分からなかった。

が今読むとすぐに分かった。

「リョウ」とは「了」という意味なのだろう。

自分の成長がなんだか感慨深い。

 

 

室生犀星の碑「・・・ろしてくれ・・・」

今読んで、分からなかった。

ノゾミと再会した後の、このシーンで主人公が考えていることは、

・ノゾミとの再会(ただし、喜びではない)

室生犀星の詩(ふるさとに帰りたいか、乞食になってでもここにいたいか)

・間違い探し(おそらく、その答え、つまり自分について)

である。

 

当てはまりそうな言葉は思いつくが決定打にかける。

 

 

ラストシーン ツユの言葉

「あの娘が本当に望んでいるのは何?」

イチョウを思い出して」

というツユの意味深な言葉。

このあと、リョウは必死に想像し答えにたどりつくが、読者にその答えはあまり明示的にされない。

 

イチョウ」とは、老婆が思い出の木だからといって、金を積まれても切らせなかった、イチョウの木のこと。

その老婆をノゾミは呪った。

なぜか、

彼女は金が欲しくて欲しくてたまらなかった。

だが、老婆はそんな金よりもイチョウの木を優先したのだ。

だから呪った。

彼女が望むもの、望んで得られなかったものを、拒んだから。

 

その図式がそのまま、ノゾミがリョウを呪っている図式となる。

 

そのあとリョウは、

「彼女が失ったものを、確かにぼくは二年間、いや・・・」

と彼女が本当に望んでいるのは何であるかを悟る。

 

このヒントは実は物語の中盤、川守という意味深な苗字の子供が説明してくれている。

「死んじゃった人が呼ぶんだ。生きてるひとが羨ましくて、魔になって貶めるんだ」

<グリーンアイド・モンスター>

生をねたむ死者のへんじたもの

 

 

だが、ツユがリョウに本当に伝えたかったことは、「ノゾミがリョウの生をねたんでいる」ということではないはずだ。

ここでもう一度、「あの娘が本当に望んでいるのは何?」というツユの言葉について考えてみる。

 

「ノゾミがリョウの生をねたんでいる」ということは「ノゾミは生きたい」ということを意味する。

そしてこれにイチョウの図式をそのまま当てはめると、

 

ノゾミは生きていたくてたまらないのに、リョウは生きることを拒んでいる。

だから、ノゾミはリョウを呪っている。

 

ということになる。

 

ここは想像になるが、ツユがリョウに伝えたかったこと、

「あの娘が本当に望んでいるのは何?」という言葉の意味はこうではないだろうか。

 

 

「ノゾミは、リョウに、生きてほしいんだよ」

 

 

なぜなら、ノゾミは自分が欲しくてたまらないものを、リョウが拒んでいることに対して、呪っているからだ。

(ここでの「生きる」とは、もちろん、今までのリョウの流れるままに捨て置くような生き方ではなく、サキのような生き方のことを指す)

 

リョウが生きようと思えば、ノゾミはリョウを呪う理由がなくなる。

だがそれは、リョウにとって並大抵のことではない。

 

ツユの言葉に対するリョウの答えはこうだ。

「彼女が失ったものを、確かにぼくは二年間、いや、もっと長い間、生まれてからずっと、まともには扱っていなかった。流れるままに捨て置いていた。

だけど・・・。

いまさら、いまさら取り返しなんてつかない!」

 

 

ラスト

最後のリョウの選択が明かされることはない。

「失望のままに終わらせるか、絶望しながら続けるかの二者択一」

「誰かに決めてほしかった」

そのタイミングで再び鳴る携帯。

「リョウへ。恥をかかせるだけなら、二度と帰ってこなくて構いません」

 

直前の言葉をそのままとるなら、二度と帰らない選択をとることになるが

 

なぜ最後がこのメールで締められているのだろうか